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4月桜の満開日に

桜と死.jpg

桜と死

満月の夜にしては仄暗い 
生温かい風が頬を撫でる 
桜の巨木が気に入ったか
若い女が木を見上げ 
降り注ぐ花弁に身を預けている 
あの辻には魔物の宿る桜があるらしい
そんな噂があるという
女は知らぬのであろう

壱百年か 弐百年か 壱千年の時を過ぎたか
その昔 血飛沫を浴びた 
まだ若い男の血だった
男は政の謀に逢い闇討ちされた
そして木の幹に身を預けるようにして逝った
血と想いだけを残して
その想いのこもった血が 
幹に浸透して やがて奥のほうで
ルビー色の琥珀となって留まった

あれから壱千年の時が過ぎたというのか 
その想い 未だ断ち切れることなく

見つけたか? 見つけたぞ

幽かに声が聞こえてきた
見つけたか? ああ、見つけたぞ

琥珀がほんのりと熱を帯び 
頑なだった心を解いてゆくのを感じる

解けた氷の水滴が流れるように
朝露のしずくが落ちるように
枝の先から ぽとん 
血が落ちた

血の水滴は桜の花弁と交じり合って
ゆらゆらと舞い 
女の頬に触れた

木々がざわつく
月に雲がかかり ふと周辺が暗くなる
もともとぼんやりと仄暗い夜
突然どこかから魔物が沸いて出ようと
気付くはずもない

それは桜の根元に立っていた
女は気付かなかった
女はそのとき 己が桜の木の下で 
舞っている幻想を見ていた
色鮮やかな幾重もの衣を纏い優雅に踊っていた

そんなはずはないような
どこかひどく懐かしいような
私はただ幻を見ているだけ 
桜の神様のいたずら 
女はそう解釈をした
これは現実ではない
現実にそんなことの起こりようはずもない

しかし女は気付いていなかった
幻を見ていたはずなのに
己が本当に舞っていることに
舞っているのは幻ではなく己であった

女は 強い視線を感じた
生きてきて これまでに感じたことのない
痛いほどに切ない想いを感じた

同時にその想いを知っている そう悟った

己はこの想いを受け止めるために生きてきたのだ
愛しい人 
私は何時 あなたを失ったのか
思い出せない 
それほど遠い昔のこと・・

いとおしい人
それは木の陰から出てきた
それは それまでもそこに留まっていたのだが
女にはそう見えた

いとおしい人
男は女にそうささやいた

いとおしい人
男と女は歩み寄り身を寄せた

すべては幻・・・

女の足首に 細くて白い蛇が絡み付いていた
赤い目をして 赤い舌をちろちろと出す
蛇はするりと女の膝の上あたりまで這い上がり
白い肌に細い牙を刺した
女の血が1滴 桜の幹に落ちた
それは木の内側へと すーっと滲み渡った
奥の方で 琥珀が 溶けて消えるのを感じた

ああこれで己も眠ることができようぞ

壱千年桜 春の舞 今宵終焉



桜の満開日に古き館にて、妖しき宴が。私は自作の詩を読みました。ましろき美女が舞いました。別室では茶会も催されました。日本人ならではの遊び心。プロフィール写真もそのときのものです。



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